妻から出た意外な一言から私の万博は始まった

ごきげんよう。皆さんはもう万博に足を運ばれましたか?
せっかく万博が大阪で開催されるのだから絶対に行ってみたいと、昨年から考えており、チケットも昨年中に購入していました。
そして4月になり、妻と「万博のどこに行きたいか」という話をしたときの第一声が──「とんかつ食べたい」でした。
なんで、とんかつなんだよ!!世界中の国が集まってるんだぞ!!とんかつなんてどこでも食えるだろ!!K◯Kでも行けよ!!
……そんな言葉を飲み込みながら、詳しく話を聞いてみると「乃ぐち」というお店なんだとか。
食べログ4点超え!とんかつ乃ぐちとは
大阪・中津の「とんかつ乃ぐち」は、食べログ4点以上を誇る予約困難な人気店。厳選された銘柄豚を、まるで寿司のように「一貫出し」で提供する、究極のとんかつ専門店です。
部位や特徴に合わせた丁寧な調理と、揚げたてにこだわるスタイルで、低温二度揚げによって肉汁を閉じ込め、サクサクの衣と絶妙なハーモニーを奏でます。まさに新感覚のとんかつ体験。
現在は中津の店舗は休業中で、万博でしか味わえないとのこと。
そんな情報を知ってしまったら、「たかがとんかつ」とは呼べなくなってしまい、人気パビリオンのことは後回しにして、とんかつ目当てで万博に行くことに決めました。
万博での乃ぐちの情報・予約システム
- 完全予約制
- 座席数:カウンター8席 × 2
- 店内は手前・奥にカウンターが分かれており、奇数時刻(11時/13時など)と偶数時刻(12時/14時など)で交代している模様
- 予約枠は「事前予約」と「当日予約」で半分ずつ
- コースは1種類のみ(6,800円・税込)
- 所要時間:約90分
- 15分以上の遅刻はキャンセル扱いになるため、パビリオンの予定と重ならないように要注意!
■ コース内容

- 前菜
- 乃ぐちのこだわりとんかつ(部位違いで6〜7種)
- キャベツ(自家製りんごドレッシング/おかわり自由)
- 赤だしの豚汁
- ごはん(以下から選択)
- 将軍油かつ丼
- カツカレー
- ダブルも可(+800円)
- ドリンク別(500〜1,200円)
朝一で予約、しかしイタリア館には入れず
入場は9時予約だったので、東ゲートから入り、9時30分頃には場内へ。
今日の一番の目的は乃ぐちだったので、アメリカ館やフランス館などのパビリオンには目もくれず、途中にいたカビゴンと記念撮影をしたあと、お店の前へダッシュ!
すでに3名が予約受付をしていましたが、枠にはまだ余裕がありそうで一安心。14時に2名で予約をしました。SMSで予約確認の通知が届きます。
予約の半数は当日の先着順と思われるので、朝イチで向かえば比較的取りやすい印象です。

ちなみにTableCheckでも予約は可能ですが、毎月1日に開放されてすぐに埋まってしまいます。気になる方は、1日のチェックが必須です!
その後、一番人気のイタリア館に並んだのですが、待てど暮らせど列は進まず…。気づけば13時30分。あと30分ではとても入れそうにないため、断腸の思いで断念。
前にいたおばちゃん曰く「5時間はかかる」とのこと。先に言ってくれ~!
贅沢の幕開けは「豚の宝石プレート」から

14時になったので、いよいよ乃ぐちの店内へ!
店内はカウンター席のみで、他のお客様とも距離が近く、少し緊張してしまいます。
席に案内され、メニューを眺めながら待っていると、ドリンクの希望を聞かれました。
禁酒中ではありましたが……さすがにビールが飲みたい!
700円のエビスビールを注文。こういった格式あるお店にしては、良心的な価格設定だと感じました。
午前中はイタリア館での敗北でやや意気消沈していたので、午後はここで挽回しようと意気込み、スマホで店情報を調べていると、「本日のコース内容のご説明と、所要時間は90分ほど」とのアナウンスが。
シェフと豚肉と前菜と
イケメンシェフが、これからとんかつにする豚肉を持ってきて、目の前でプレゼンテーションしてくれます。
まるで高級ホテルのような演出で、写真撮影の時間まで用意され、一緒に(・ω・)bグッのポーズを決めてくれるほどノリノリ。これはもうエンタメ。

早速ビールが到着し、前菜のスープが運ばれました。
やさしく、体に染み渡るような味。イタリア館の疲労も癒やされていくようです。

続いて登場したのは「えっ、生肉!?」と思ったら生ハムでした。
こんなに美しい生ハムは初めて見たかも。
そしてその手前にあるのが鴨のロースト。クセのある味を想像していたけれど、まったく臭みがなく、奥行きのある味わい。
「味の向こうにまた味がある」――そんな感覚に陥る、噛むたびに新しい風景が見えるような鴨でした。
濃厚な豚汁と、甘すぎるキャベツ
「ごはんはどうされますか?」と聞かれたので、もちろん頼んだ。締めにご飯ものがあるのは知っていたが、やはりとんかつを食べる時にはご飯を食べたくなるのが日本人のサガだろう。これは好みの問題ではなく、遺伝子の問題である。我々のDNAには「とんかつ=白ごはん」の本能が刷り込まれている。
そしてご飯とともにやってきたのが豚汁。すでに隣ではとんかつの提供が始まっているが、こちらはまだ順番待ち中。「早くしろよ!!」そんな逸る気持ちを抑えて、豚汁をズズッとすする。
驚いた。今まで食べた豚汁と明らかに違う。脂っぽくて濃厚なのに、甘い。どう考えても豚の質が良い。脂が重たくないのだ。豚汁でこのレベル…。もう、とんかつが待ちきれない。
どんどん高ぶる気持ちを抑えつつ、キャベツを食べる。血糖値を上げないために野菜を先に食べるのは基本中の基本。とんかつといえばシャキシャキキャベツだが、このキャベツはしっとりしている。
口に入れた瞬間、驚くほどの甘さが広がる。リンゴのドレッシングをかけているようだが、この甘さはドレッシングではなく、キャベツそのものの甘さだ。キャベツだけでご飯が食べられそうになるが、これから本命のとんかつが出てくるのに、ここでご飯を使い切るわけにはいかない。(なお、キャベツとごはんはおかわり自由です。)
一貫出しのとんかつ、いよいよ本編開始
満足感に浸っていると、シェフがとんかつを慎重に包丁で切り分け、女性スタッフが席まで持ってきてくれる。「こちらヒレになります。お塩でお召し上がりください」
まるで高級ホテルのように一品ずつ料理の説明をしてくれながら提供されるとんかつ。まずはあっさり系のヒレ肉からのようだ。
その断面は、美しいロゼ色。絶妙な火加減、そして余熱を計算し尽くしたであろう仕上がり。こんなきれいなとんかつ、初めて見た。
そして念願のひと口。今まで食べたことのない豚の甘さを感じる。これが…豚の本来の味か。1口目はおすすめの塩で、2口目は好みに応じて。通ぶってからしをつけてみたが、微妙だったので再び塩に戻った。やはり、肉本来のうまみを楽しむには塩がベストだ。
これがシャトーブリアンだ!!

そして2品目。「こちら、シャトーブリアンでございます。何もつけずに召し上がりください」
僕は耳を疑った。シャトーブリアン、その希少性は知っている。1頭の豚(あるいは牛)からわずかしか取れない高級部位。過去に一度だけ食べた記憶があるが、肉そのものに強い旨味があるのは間違いない。
しかし…「なにもつけずに」だと!?
なんて挑戦的な言葉だろう。これは、あの偉大なるとんかつソースに対する明確な挑戦である。ソース不要のとんかつが存在すれば、とんかつソースの立場はどうなる。これはもう、公平に審査するしかない。
慎重にシャトーブリアンを口に運び、全神経を集中させる。
…すまん、とんかつソース。君の完敗だ。
何もつけなくても、いや、つけないからこそ、濃厚な味わいが際立つ。噛まずともとろけるような柔らかさ。肉そのものの味で、ご飯が進む。
気づいてしまった。これまで僕は「とんかつでご飯を食べていた」のではなかった。「とんかつソースでご飯を食べていた」のだと。
とんかつソースよ、今までありがとう。そして、さようなら。
脂は醤油で落として食べる
徐々に脂身の多い部位が登場してくる。「こちらはお醤油で脂を落としてお召し上がりください」との案内。
とんかつを醤油で食べた経験なんて、正直なかった。だって、俺の“ずっとも”はとんかつソースだったんだから。でも、もう後戻りはできない。
恐る恐る醤油を垂らして食べてみると……驚いた。こんなに合うなんて知らなかった。いや、これは肉の質が極上だからこそ、少量の醤油でもしっかり味が引き立つのだと思う。
このとんかつは、もはや「揚げた刺身」と言ってもいいかもしれない。普通のとんかつに同じように醤油をかけたら、塩気が強すぎて肉の味なんて消えてしまうだろう。
料理って、なんて奥深いんだろう。

そして終盤。リブロースの登場だ。見た目からして脂身が多く、ギラギラしている。
僕ももう40を過ぎて、昔のように脂身を喜んで食べられる身体じゃなくなった。脂の多い肉を食べた翌日は、かなりの確率で胃もたれする。
「特に脂身が多いので、からし醤油をおすすめしております」
なるほど。醤油で脂を落とすだけでなく、からしでサッパリさせるという戦術か。
これまで避けてきたからしを豚肉にのせ、醤油をちょっとつけて口へ。
…全然脂っこさを感じない。驚きの軽さだ。
ご飯がなくなりそうだったが、締めにはご飯ものが控えている。お腹も7割ほど満たされていたので、ここは我慢。とにかく、肉そのものの味を楽しむことにした。
こうして、最後の一切れまで「肉のうまさ」で魅了されながら、とんかつのコースは幕を閉じた。
贅沢すぎるカツカレー
締めのご飯ものは「醤油かつ丼」か「カツカレー」から選べる。かつ丼も魅力的だったが、個人的にはカレー派。迷わずカツカレーを選んだ。
量は控えめで、まさに“締め”にちょうどいい。
……そして運ばれてきたカツカレーを見て、言葉を失った。

茶色い。いや、これは“黄金色に近い芸術的な茶色”だ。普通、カツカレーは茶色い料理の権化であり、茶色は正義だ。だが、このカツカレーは違う。
肉の断面がほんのりピンク。カツが美しい。ルーもとろみがあって、上品な和の香りがする。こんなカツカレー、見たことない。
これはもはや料理というより、とんかつアートだ。とんかつパビリオンと名乗っても誰も文句は言わないだろう。
気になるのは、「この料理の主役は誰なのか?」ということ。
これまでの人生、カレーは主役、カツは添え物だと思っていた。だって、カレーだけでもご飯は進むけれど、カツだけではとんかつソースという相棒がいないと成立しないと思っていた。
だが、このカツカレーは明らかに“カツが主役”だ。カツが、ルーの存在感を凌駕している。自己主張が強すぎるカツ。こんなカツカレーは初めてだ。
この日、人生で初めて「主演男優賞」をカツに授けた。それほど、圧倒的な存在感だった。
他のパビリオンでは味わえない、客同士の雑談時間
とんかつのコースが終わり、お茶をすすりながら雑談タイムへ。
このシェフ、とにかく気さくで話しやすい。満面の笑みで「今日はどこ行きました?」と話しかけてくれた。
店内は小さく、しかも“万博”という共通の話題があるため、周囲のお客さんとの会話も自然と弾んでいく。
先ほどイタリア館で長時間並んだ末に諦めた話をすると、左隣のお客さんがキャンセル待ちのコツを教えてくれた。
右のお客さんは「SNSで有志が作った地図が便利だよ」と共有してくれたり。
こうした偶然の出会いや会話が生まれるのも、乃ぐちの魅力のひとつだと思う。
6,800円という価格は決して安くないけれど、料理の味、空間の心地よさ、人との出会いを含めて──それ以上の価値があったと心から感じられた。
予約が取れなくても、カツサンドという選択肢
「とんかつ乃ぐちの味を少しでも体験してみたい」
そんな人には、テイクアウト専用のカツサンドがおすすめ。
2800円だ。少し高いが肉の質を考えると妥当な値段だと思う
万博会場では各国の料理をつまみながら回るのも楽しい。がっつり食事は時間がないけれど、乃ぐちの味を感じたい──そんな人にぴったりな軽食だ。
まとめ:乃ぐちは“とんかつパビリオン”だった
大阪・関西万博に行く目的が「とんかつ」──最初は正直、驚いたけれど、結果的にその選択は大正解だった。
食べログ4点超えの名店「乃ぐち」は、単なるとんかつ屋ではなく、パビリオン級の体験が味わえる“食の展示”。
- 一貫出しで供される極上のとんかつ
- 部位ごとに異なる味・食べ方の提案
- とんかつソースを超える、塩・醤油・からしの演出
- 締めのカツカレーは芸術そのもの
- カウンターでの会話も“万博的コミュニケーション”として印象的
6,800円という価格以上の価値が、確かにそこにはあった。
予約が取れなくても、カツサンド(2,800円)でその世界観を少しでも味わうことができるのも嬉しいポイント。
万博の華やかなパビリオン群の中に、唯一無二の“とんかつパビリオン”が存在していた。
──そう胸を張って言える、特別な体験だった。
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